「そうか、もう君はいないのか」by城山三郎

重厚なものも多い城山三郎の本の中で、
ずんずん読めるとっつきやすい本なのですが、
あの社会派作家がこうも愛妻家だったかと知って
とにかく驚きました。
この世代の人にして、この愛の物語です。
真正面から直球の、大きな愛の話です。
本当に、稀有なことだとおもう。
もう、きみには頼まない」の主人公・石坂泰三の
雪子夫人が亡くなったあとの恋々とした部分は、
まさに著者本人の一面でもあったのだということを
改めて知りました。

と同時に、最後に綴られた次女・紀子さんの
「父と母の最期」についての一文が
とにかく泣けました。
娘から見た父と母の愛、特に
母が亡くなったあとの父の姿が
率直に語られていて、
父から母への、母から父への、
そして娘から父母への愛情の深さに
涙せずにはいられないのです。号泣。

さらに、この次女の文章のうまさと観察力は
父から娘に引き継がれたものとしか
言いようがないのだなあということも
読んでいて否応なく認識され、
それも涙を誘います。

週刊文春のなかで阿川佐和子さんと紀子さんが
対談している文章を読んで、
紀子さんのなんとも言えない人柄の柔らかさや
父への思い、父と母の姿の描写に惹かれ
今回、この本を読むにいたりましたが、
彼女の文章のうまさはまさに父譲り、
彼女の柔らかさやユーモアセンスは
母譲りであるのだろうなとしのばれました。

ここまで愛される妻っていうのもいるんだなあ。
こうも愛し愛される夫婦って、
それだけでなんと意味ある人生なのだろう。
そうおもうのです。

そうか、もう君はいないのか

この記事へのコメント

tsuuma
2008年05月03日 05:28
城山三郎さんは、ゴルフも愛されたそうです。大岡昇平氏とはゴルフ仲間でもあり、ゴルフに行く途中の車の中で「広田弘毅氏」の取材で家族に取材を拒否されていて難儀していると大岡氏にこぼしたところ、大岡氏と広田氏の長男が知り会いで、その縁で家族の取材が可能になったそうです。その成果が「落日燃ゆ」。ゴルフも語り合う文士仲間、憧れる世界です。


tatsuuma
2008年05月03日 10:05
城山さんの出世作は,「総会屋錦城」ではなかったか。昔、テレビ化されたのを見た記憶が。その時の山茶花究という渋い役者の存在が、強い印象を受けました。経済活動の中に人間存在を見る、城山ワールドです。
KISHIKO
2008年05月06日 00:00
地元名古屋出身の社会派作家のイメージとしては、意外なくらいの純愛物語で、とても涙なしには読めませんでした。
また、ところどころに、私にとっても身近な名古屋の地名、場所が出てきて、とても身近に感じました。
タイトルから、容子夫人を天に送られても、思いは変わらなかったのでしょうね。
tatsuuma
2008年05月12日 06:24
男にとって女性が創造力の源泉であるから、純愛物語が語られるのではないか、と思います、江藤淳氏は後追いのように。谷崎氏は第二夫人をモデルに細雪を、ピカソは、池田満寿夫は、例はきりがありません。創造者が女性の場合もしかりで、瀬戸内寂聴、おかもとかのこ、与謝野晶子。異性の力は偉大です。
シーラカンス
2008年05月13日 06:17
>辰馬さん
この方の本を読んだのは「もう君には頼まない」からだったんです。とても面白くて、夢中で読みました。意外でした。もっととっつきにくい「経済小説」っぽさがあるのかと思い込んでいました。「落日燃ゆ」、読み出したんですが、本がどっかに行方不明になっちゃって~~、本人が外務大臣になるあたりから先に進めないんです~~(涙)

>KISHIKOさん
ホントに驚くまでの純愛物語、それも奥さんに対してのもので、直球ですね…。人生通しても変わらない思いって、本当に世の中にあるんだ~と、心洗われる感じがします。そうそう、名古屋を舞台にした部分もたくさんありますね。茅ヶ崎もあって、そのへんも思い浮かべつつ読みました。
taytsuma
2008年05月13日 22:29
今日、部屋に女性がきてその本はありませんか、とのこと。すぐ紀伊国屋に買いに走りました。ついでのなんとかの環境問題も。シーラさん、名著、良書、どんどん御推薦ください。
シーラカンス
2008年05月16日 05:39
いい本を次々仕入れておられるご様子ですね!お知らせ文を拝見して「お~、あの本が入ったんだ」とか思っております。また伺わねば。あのお知らせページ、いいですね^^

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